「月3万円くらいと聞いたんですが、本当ですか」
特定技能の受け入れを検討し始めた企業から、最初に出てくる質問はたいていこれである。そして、この「月3万円」という数字はおおむね正しい。出入国在留管理庁が公表している調査データでは、月額の支援委託費は平均約2.8万円/人・月、そして約9割が3万円以下に収まっている。相場としては、これ以上ないほどはっきりした数字だ。
ただ、この数字だけを持って見積もりを比べ始めると、たいてい途中で混乱する。A社は月2万円、B社は月3.5万円。安いほうがいい、と即断できないのは、そもそも「何をいくらでやるか」の区切り方が機関ごとに違うからである。
登録支援機関(=特定技能の外国人を支援する業務を、企業から委託されて行う機関。出入国在留管理庁に登録されている)に払うお金は、大きく二つに分かれる。毎月かかる支援委託費と、受け入れの最初に一度だけかかる初期費用だ。
初期費用のほうは、月額よりも幅が大きい。
すでに日本にいる人を採用する場合
10〜30万円/人。留学生や技能実習を修了した人など、日本国内にいる外国人が対象。
海外から新しく呼ぶ場合
30〜60万円/人。現地での募集、送り出し、査証(ビザ)の手続きなどが加わる。
3倍
上限どうしを比べると、海外からの受入れは国内在留者の倍以上になる。現地の面接手配、渡航前のガイダンス、空港での出迎え、住まいの確保。国内にいる人ならすでに済んでいる工程が、まるごと増えるからだ。
この初期費用を、募集にかかる紹介料と混ぜて提示する機関もあれば、分けて出す機関もある。見積書を並べるときに最初に確認したいのは金額そのものより、この線の引き方である。
法律で決められている支援は10項目ある。事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居の確保、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習の機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援、そして定期面談と行政への届出。
並べると多く見えるが、毎月継続して発生するのは実質的に限られる。相談対応と、3か月に一度の定期面談、それに伴う四半期ごとの届出書類の作成。月額2.8万円は、おおむねこの部分の対価だと考えるとイメージが合う。
そして、ここに落とし穴がある。定期面談は、対面で行うことが求められる場面がある。外国人が働く現場が支援機関の事務所から遠ければ、担当者が移動する。その交通費を月額に含めている機関と、実費で別途請求する機関がある。通訳が必要な言語の場合の通訳費も同じだ。
見積もりで必ず聞くこと
「月額に含まれないものを、全部教えてください」。定期面談の交通費、通訳費、住居探しの同行、役所への同行、在留期間更新の申請取次。この5つは、含む機関と含まない機関が実際に分かれる項目です。
__
月2万円の機関が、面談のたびに交通費と通訳費を実費請求してくる。月3.5万円の機関が、それを全部込みで受けている。年間で計算し直したら後者のほうが安かった、という比較結果は珍しくない。
そう疑いたくなる気持ちはわかる。ただ、話はもう少し込み入っている。
支援の10項目は法律で決まっているので、登録支援機関である以上、やることの中身は共通している。月2万円の機関でも、義務を果たさなければ登録を取り消される。だから「安い=項目を減らしている」とは限らない。
差が出るのは、担当者一人が何人を見ているか、という一点にほぼ集約される。
相談は業務時間内にきれいに来るわけではない。夜中に体調を崩した、給料の計算がわからない、家族が現地で入院した。こうした連絡に折り返せるかどうかは、担当者の抱えている人数で決まる。低価格を成り立たせるには、担当者一人あたりの受け持ちを増やすか、対応を定型のやりとりに絞るしかない。それが悪いわけではない。日本語が堪能で、生活も安定している人を数名受け入れるだけなら、手厚い支援は過剰投資になる。
逆に、来日直後の人を10名まとめて受け入れる企業が、最安値の機関を選ぶと、たいてい社内の誰かが穴を埋めることになる。
ここが一番誤解されやすいところだ。
支援を委託すれば、支援の実務は登録支援機関が担う。しかし、支援が適切に行われなかったときに行政から指導を受けるのは、受入れ企業のほうである。委託先を選んだのは企業だからだ。
丸投げが通用しない理由
支援が滞れば、次の在留期間の更新に影響します。更新が通らなければ、その人は働き続けられません。委託費を削った結果として人が辞めていくなら、月1万円の差額は何も節約していないことになります。
__
だから、費用の比較は「いくら払うか」ではなく「その金額で自社が何をしなくて済むか」で組み立てたほうがいい。社内に外国語で対応できる社員がいて、役所の手続きにも慣れているなら、支援の一部を自社で持って委託範囲を絞る選択もある。逆に、初めての受け入れで社内にノウハウがないなら、多少高くても包括的に受けてくれる機関のほうが、結果的に総コストは下がる。
- 受け入れ予定の人が国内在留者か、海外からの新規かを確定する(初期費用の桁が変わる)
- 月額に含まれる業務と、実費請求になる業務の一覧を書面でもらう
- 担当者一人が何人の外国人を担当しているか、対応可能な言語と時間帯を聞く
- 1年間の総額(初期費用+月額×12+想定される実費)で並べ直す
4番目までやって初めて、平均2.8万円という数字が使える物差しになる。3社から見積もりを取って、1年総額がどれも似た金額に並ぶなら、あとは相性と実績で選べばいい。極端に安い1社があるなら、その差額がどこから出ているのかを聞く。理由をきちんと説明できる機関なら問題ない。説明が曖昧なら、そこが後で請求されるところである。
最新の制度内容や公表データは、出入国在留管理庁の特定技能制度のページで確認できる。
最後にひとつ、答えの出ていない話を残しておく。月2.8万円という平均は、あくまで今までに委託された分の平均であって、これから受け入れる人にとっての適正額ではない。育成就労制度への移行が進めば、支援の中身も価格も動く可能性がある。今の相場を基準にしつつ、契約は長期で縛りすぎないほうが賢明だろう。