育成就労と技能実習の違いを1つだけ挙げるなら、転籍だろう。外国人を労働者としてより適切に権利保護するという観点から、技能実習では認められなかった本人意向の転籍が入った(Q9)。

受入企業から見れば、育てた人が抜けうるということでもある。条件を正確に把握しておく価値がある。

転籍は2種類ある

1つは、暴力やパワーハラスメントなどの人権侵害を受けた場合など、やむを得ない事情がある場合の転籍。これは技能実習から引き続き認められる。

もう1つが、本人の意向による転籍である。一定の要件のもとで新たに認められた(Q48)。

どちらの場合でも、転籍先は同一の業務区分内に限られる。分野を変える転籍はできない。

本人意向の転籍に必要な6つ

Q&Aは、本人意向の転籍の要件をこう並べている(Q48)。

転籍を希望する育成就労外国人が、分野ごとに分野別運用方針で定める一定水準の技能と日本語の能力を身につけていること。

直近の育成就労実施者のもとで、転籍制限期間を超えて育成就労の対象となっていること。

転籍に当たって、民間の職業紹介事業者による職業紹介等を受けていないこと。

転籍先が、優良な育成就労実施者であること。

転籍先で受け入れている育成就労外国人の総数のうち、本人意向の転籍を行った人の割合が一定以内におさまっていること。

転籍先が転籍元に対して、一定の金額を支払うこととしている。

3つ目の条件は読み飛ばしやすいが、実務では大きい。民間の人材紹介を通じた転籍を認めない設計になっている。引き抜きを職業紹介ビジネスにさせない、という趣旨だろう。

4つ目も効く。転籍を受け入れられるのは優良な育成就労実施者だけである。優良でない企業は、転籍者を受け入れる側になれない。

転籍制限期間は分野で決まる

転籍制限期間とは、転籍前の受入機関のもとで育成就労を行うことを求める期間である(Q50)。

各分野で定めることになっていて、1年とすることを目指しつつ、当分の間は人材育成や人材確保の観点から1年から2年の間で定められる。自社の分野が何年になったかは、分野別運用方針を見る。

1年を超える期間が設定された分野でも、受入機関の判断で1年に短くできる(Q51)。制限を緩める方向にだけ動かせる。

一度本人意向の転籍をしたあと、もう一度転籍しようとする場合も、改めて転籍制限期間が経過している必要がある。短い間隔で何度も動くことはできない。

費用は戻るが、いくらかは未定

転籍元が受け入れに要した初期費用については、転籍先が一定以上の金額を負担する(Q55)。

計算式は示されている。主務大臣が告示で定める金額に、育成就労外国人が在籍していた期間に応じた按分率を掛ける。在籍が短いほど転籍先の負担が重くなる形になる。

ただし、この告示は今後の制定予定である。現時点で実額は分からない。受け入れの投資回収を計算するときには、ここが空欄のままになる。

手続と、監理支援機関の役割

本人意向の転籍をするための手続については、Q&Aに設問が立っている(Q49)。転籍の申出があったとき、監理支援機関は関係機関との連絡調整などの役割を担う(Q32)。

つまり、自社が委託している監理支援機関は、転籍の相談窓口でもある。転籍を防ぐ側ではなく、中立に調整する立場に置かれている。

企業側が取れる手

制度上、本人意向の転籍そのものを封じる方法はない。打てる手は2つに絞られる。

分野別運用方針で認められた範囲で、転籍制限期間を短くしない。1年を超える期間が設定された分野なら、あえて1年に短縮しないという判断ができる。

もう1つは処遇である。転籍先は同一業務区分内に限られるので、比較されるのは同業他社になる。賃金、住居、日本語学習の機会。転籍が制度に入った以上、選ばれ続けるための条件は同業の中で相対的に決まる。

同じ業務区分の中で異なる主たる技能に変えられるかどうかという論点もある(Q52)。分野ごとの取り扱いを確認しておきたい。

よくある質問

転籍を受け入れる側になれば、採用の手段が増えますか。

なりうる。ただし転籍先は優良な育成就労実施者であることが条件で、さらに受け入れている育成就労外国人のうち転籍者の割合が一定以内でなければならない(Q48)。転籍者ばかりを集めることはできない。

転籍制限期間の前でも動けるケースはありますか。

やむを得ない事情がある場合の転籍は、制限期間の対象ではない。人権侵害を受けた場合などがこれにあたる(Q48)。

転籍先が見つからなかった外国人はどうなりますか。

Q&Aに直接の記載はない。転籍は同一業務区分内に限られるため、受け皿の数は分野の状況に左右される。

ヤトエルには、分野と地域で支援機関を絞り込める一覧がある。転籍を受け入れる側に回る準備をするときにも使える。