「育成就労って、結局いくら会社が出すんですか」
受け入れを考え始めた会社から、この夏よく届くようになった質問である。技能実習のときと同じつもりで見積もると、たぶん足りない。
先に、いちばん大きく変わったところを1つ。
技能実習では、来日する本人が母国の会社に払う手数料が大きくなりがちだった。借金を背負って来日し、それが失踪の引き金になっている、という指摘が制度の見直しの出発点にある。
育成就労では、そこに上限が引かれた。相手の国で働きたい人を集めて送り出す会社(送出機関)が本人から取れる費用は、日本で受け取る月給の2か月分まで。残業代などを含まない月給が20万円なら、40万円が天井になる。
問題は、上限を超えた分がどこへ行くかである。出入国在留管理庁の育成就労制度Q&A(問74)は、こう書いている。
当該上限を超える費用については、育成就労実施者又は監理支援機関が負担することとなります。
育成就労実施者というのは、実際に受け入れて働いてもらう会社のことだ。つまり、これまで本人の借金として見えていなかった費用が、会社か監理支援機関の請求書の中に現れる。
金額はまだ誰にも分からない。国によって送り出しにかかる費用が違い、二国間の取決めもこれから作られていくためである。
育成就労そのものの相場は、まだ実績がないので存在しない。近いところにある2つの調査を置いておく。どちらも2022年(令和4年)に公表されたもので、いま手に入る中ではこれが新しい。
技能実習では、監理団体に払うお金(監理費)の調査がある。外国人技能実習機構が1,972団体に送り、631件の有効回答を得たものだ。実習生1人あたりの初めにかかる費用は平均345,327円。毎月かかる分は1号で30,280円、2号で28,963円。ここに、時期を決めずに発生する費用が平均143,774円、別に積まれている。3年ぶんを単純に足すと1人あたり約155万円、月あたりおよそ43,000円になる(外国人技能実習機構「監理団体が実習実施者から徴収する監理費等に関するアンケート調査の結果について」令和4年1月24日。2026年9月3日確認)。
特定技能のほうは、支援を任せる先に毎月払う金額が平均28,386円で、30,000円以下が約9割を占めている(出入国在留管理庁「特定技能制度及び技能実習制度に関する意識調査(令和4年7月)」。数値は同庁「特定技能制度の現状について」33ページによる。2026年9月3日取得)。
育成就労はこの2つの間に置かれる制度なので、毎月かかる分は同じ3万円前後から始まると見るのが自然だろう。読みにくいのは初めにかかる費用のほうで、そこに「本人から会社へ移った分」が乗る。
育成就労には、技能実習になかった条件が入っている。3年の終わりに、日本語の試験に受かることが目標として置かれた。日本語教育の参照枠でA2と呼ばれる水準で、身のまわりのことについて簡単なやり取りができる程度を指す。
では誰が教えるのか。同じQ&A(問66)の答えはこうなっている。
育成就労実施者又は監理支援機関において、費用の負担を含め日本語能力向上のために必要な措置を取っていただくこととなります。
費用の負担を含め、と書いてある。ここは読み飛ばせない。日本語学校に通わせるのか、教材を買うのか、社内で誰かが見るのか。やり方は選べるが、費用がどこかに発生することは避けられない。
時間の扱いには、もう少し細かい線が引かれている。この講習を受けている時間を労働時間として扱うことを、制度は義務づけていない(問69)。ただし、それは制度が求めていないというだけで、会社が事実上受講を強いる形になっていれば、労働時間として賃金の対象になる余地は残る。運用のしかたで結論が変わるところなので、進め方を決めるときに一度確かめておきたい。
育成就労でいちばん心配されているのは、育てた人が別の会社へ移れることだろう。本人の希望で勤め先を移ること(法律の言葉では転籍)が、一定の条件のもとで認められた。
ただし、希望すればいつでも移れるわけではない。分野ごとに定める技能と日本語の水準に達していること、移る先が優良と認められた会社であること、民間の職業紹介の会社を通していないこと、移る先で本人希望の転籍者が一定の割合を超えないことが要る(問48)。
移れるようになるまでの期間は、分野ごとに1年から2年の範囲で決められる。1年を超える期間が定められた分野でも、会社の判断で1年に縮めることはできる。逆に1年を超える期間のままにする分野では、その分だけ待遇を良くする措置を取る必要がある(問50・問51)。
3年のうち1年で移れる場合、来日の費用を出したのは前の会社なのに、育った人材は次の会社が受け取ることになる。ここには精算の仕組みが用意されている。
本人意向の転籍の際には、転籍元が受入れに要した初期費用について、転籍先が一定以上の金額を負担することとしました。
移った先の会社が、前の会社の初めにかかった費用を一定額払う。在籍していた期間の長さに応じて、割った金額になる。
ただし、その金額を決める国の告示は、まだ出ていない。「この告示は今後制定する予定です」とだけ書かれている(問55)。いくら戻るのか、1年で移られたときにどれだけ回収できるのかは、現時点では誰も答えられない。
ここからは当社の予想である。
初めにかかる費用は、技能実習の平均345,327円より上がると考えています。根拠は3つ。本人が払えていた上限が月給2か月分に抑えられ、超えた分が会社側に回ること。日本語教育の費用負担がはっきり書かれたこと。そして、受け入れられる国が二国間の取決めを結んだ先に限られ、送り出す側の競争が当面は働きにくいことです。
この予想が外れるとすれば、転籍の精算額を決める告示が高めに設定されたときです。前の会社が回収できる額が大きければ、初めに厚く払っても取り返せる計算になり、相場の考え方そのものが変わります。
毎月かかる分は、特定技能の28,386円前後から大きく離れないと見ています。監理支援機関がやることは技能実習の監理団体と近く、そこに新しく費用のかかる仕事が積み増されているわけではないためです。こちらが外れるとすれば、日本語教育の面倒を機関側がまとめて引き受ける形が主流になったときで、その分は毎月の金額に乗ってきます。
相場を知っても、実際の請求書は機関ごとに違う。区切り方が揃っていないからである。
聞き方としては、「月額いくらですか」より「3年で総額いくらになりますか」のほうが早い。技能実習の調査で見えた143,774円のように、毎月の金額の外側に置かれている費用があるためだ。総額で聞けば、そこも含めて答えざるを得なくなる。
あわせて、日本語の講習を誰がどこまで見るのか、その費用は毎月の金額に入っているのかも確かめておきたい。ここは制度上あとから必ず出てくる話で、見積もりの時点で入っていなければ、後から別の請求になる。
条件に合う監理団体・登録支援機関(育成就労の監理支援機関になる予定の機関を含む)へ、まとめて見積もりを頼めるようにしてあります。1社ずつ問い合わせるより、同じ質問を同じ形で投げたほうが、比べたときの差が見えます。
外国人本人はいくらまで負担しますか。
送り出し会社へ払える費用は月給2か月分までです。残業代などを含まない月給が20万円なら40万円が天井で、超えた分は受け入れる会社か監理支援機関が負担します。
日本語の講習費用は誰が払いますか。
会社側または監理支援機関です。日本語能力を上げるための措置は「費用の負担を含め」義務と明記されました。
転籍されたとき、かけたお金は戻りますか。
移った先が前の会社の初期費用を一定額払う仕組みになっています。ただし金額を決める告示はまだ出ていないため、実額は計算できません。